大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和60年(オ)1300号 判決

上告人

ロッテ物産株式会社

右代表者代表取締役

重光武雄

右訴訟代理人弁護士

古沢昭二

原慎一

腰原誠

被上告人

伊藤萬株式会社

右代表者代表取締役

芳村昌一

右訴訟代理人弁護士

河合弘之

西村國彦

右当事者間の東京高等裁判所昭和五九年(ネ)第三三三二号売買代金請求事件について、同裁判所が昭和六〇年八月七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人古沢昭二、同原慎一、同腰原誠の上告理由について

商法四三条一項は、番頭、手代その他営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、その事項に関し一切の裁判外の行為をなす権限を有すると規定しているところ、右規定の沿革、文言等に照らすと、その趣旨は、反復的・集団的取引であることを特質とする商取引において、番頭、手代等営業主からその営業に関するある種類又は特定の事項(例えば、販売、購入、貸付、出納等)を処理するため選任された者について、取引の都度その代理権限の有無及び範囲を調査確認しなければならないとすると、取引の円滑確実と安全が害される虞れがあることから、右のような使用人については、客観的にみて受任事項の範囲内に属するものと認められる一切の裁判外の行為をなす権限すなわち包括的代理権を有するものとすることにより、これと取引する第三者が、代理権の有無及び当該行為が代理権の範囲内に属するかどうかを一々調査することなく、安んじて取引を行うことができるようにするにあるものと解される。したがって、右条項による代理権限を主張する者は、当該使用人が営業主からその営業に関するある種類又は特定の事項の処理を委任された者であること及び当該行為が客観的にみて右事項の範囲内に属することを主張・立証しなければならないが、右事項につき代理権を授与されたことまでを主張・立証することを要しないというべきである。そして、右趣旨に鑑みると、同条二項、三八条三項にいう「善意ノ第三者」には、代理権に加えられた制限を知らなかつたことにつき過失のある第三者は含まれるが、重大な過失のある第三者は含まれないと解するのが相当である。

原審は、右と同旨の見解に立ち、浜田敏嗣が、上告人の物資部繊維課洋装品係長として、その担当業務である洋装衣料品の売買取引に関する業務を処理していた事実を認定して、同人は商法四三条一項所定の使用人に当たるものとし、かつ、その代理権に加えられた制限を知らなかったことにつき被上告人の代理人である前川浩一に重大な過失があったとは認められないとして、被上告人の請求を認容しているのであって、右認定判断は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、独自の見解に立って原判決を論難するか、又は原審の専権に属する事実の認定、証拠の取捨判断を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 四ツ谷巖 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 大堀誠一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例